水産研究成果情報検索結果




乱流混合による栄養塩供給機構と基礎生産への寄与
本研究では、強い流れが急峻な地形によって乱されることで生じる鉛直混合による硝酸塩(主要な栄養塩の一つ)の供給機構と基礎生産への寄与(栄養塩供給量の定量化)の解明を目的として、計測手法の開発を行うとともに、乱流混合が活発な海峡部や海嶺域(乱流ホットスポット)における調査を推進しました。
担当者名 (国研) 水産研究・教育機構 水産資源研究所 水産資源研究センター 海洋環境部 寒流第2グループ 連絡先 Tel.022-365-1191
推進会議名 漁場環境保全関係 専門 物質循環 研究対象 海洋構造 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(1)水産資源の持続的利用のための管理技術の開発
[背景・ねらい]
植物プランクトンの成長(基礎生産)に必要となる栄養塩は、海洋の中層(200 m以深)に多く分布します。光のあたる表層へ栄養塩が供給されると、植物プランクトンが増殖し、食物連鎖を通じて動物プランクトン、ひいては魚類生産の増大に繋がります。

黒潮などの強い流れが浅瀬を通過すると、流れに大きな擾乱が生じ、細かな渦(乱流)が引き起こされ、乱流に伴う鉛直的な混合によって、栄養塩が表層へ供給されると理解されています。しかしながら、海洋内部の擾乱(乱流も含む)と栄養塩濃度の詳細な分布を同時に把握することは困難であり、そのため、擾乱とそれに伴う栄養塩輸送の実態の把握が遅れています。


[成果の内容・特徴]
1. 乱流計に硝酸塩濃度計を搭載するという新たな計測システム(図1写真)を開発し、これまで計測が困難であった乱流による鉛直混合(図1黒線の振幅の大きさが乱流の強度を表す)による硝酸塩の鉛直輸送(フラックス、図1赤線)を計測可能としました。

2. 津軽海峡とトカラ海峡における調査を実施し、津軽暖流や黒潮が浅瀬を通過する際、浅瀬の背後に巨大な内部波動(図2に映る高さ50 mを超える波状の構造)を伴う猛烈な乱流(図2黒線)による鉛直混合が生じることを明瞭に捉えることに成功しました。

3. 津軽海峡、伊豆海嶺、トカラ海峡において、強い乱流により生じた鉛直混合による硝酸塩のフラックスを定量的に把握することに成功しました。トカラ海峡で観測されたフラックスは特に大きく、世界最大級の硝酸塩フラックス(黒潮流域の約3千トンの魚類生産を支える値)が分布することを発見しました。
[成果の活用面・留意点]
魚類など生物の生産性の分布・変動を把握するためには、基礎生産を支える栄養塩供給量の分布・変動を把握する必要があります。本研究では、乱流混合による栄養塩フラックスを正確に計測する手法を確立し、海峡部などを中心に調査を推進しました。今後も、開発した計測手法の活用によって、様々な海域における生物生産性の把握が期待されます。
[その他]
研究課題名:日本学術振興会(JSPS)科学研究費 JP15H05818、 JP15H05821、 JP18H04914、 JP16H01590、 JP18H04920の助成を受け実施したものです。

研究担当者:長谷川 大介 田中 雄大

発表論文等:本研究の関連成果は、7件の査読付き学術誌等(国際誌6編、国内誌1編)で公表しております。
[具体的データ]

図1 開発した計測システム
本研究で開発した乱流混合による硝酸塩フラックスを計測するシステム(写真)と、同システムにより計測された値(グラフ)。



図2 本研究で捉えた海中の巨大な擾乱
津軽海峡(上)とトカラ海峡(下)の浅瀬背後で捉えた海洋内部の擾乱。赤点線の枠内:魚探で捉えられた等密度面の波動。黒線:乱流に伴う微細な流速変動。








[2021年の研究成果情報一覧] [研究情報ページに戻る]