[背景・ねらい]
アオザメ(Isurus oxyrinchus)は、主にまぐろはえ縄漁業で捕獲され、大西洋では他の海域に比べて多く利用されてきました。大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)による2017年の資源評価では、北大西洋のアオザメは「過剰漁獲であり、乱獲状態である」とされました。大西洋のアオザメ資源の管理が世界的な注目を集めるなか、「地域間の遺伝的交流の実態」を調べること、つまり「遺伝的集団構造の知見」が、効果的な管理を考えるうえで、基礎情報のひとつとなります。これまでの遺伝的集団構造の研究では、ミトゲノム(約16,000塩基)のうちごく一部(約1,000塩基)のDNA分析が行われてきましたが、データ量の不足から、明確な答えが得られていませんでした。そこで本研究では、「アオザメのミトゲノムのすべてのDNA分析を行い」、従来よりも大規模なデータに基づいて「大西洋のアオザメの遺伝的集団構造の解明」に挑みました。
[成果の内容・特徴]
(1)次世代シーケンサーを活用して、低コストでミトゲノムの全塩基配列を決定できる方法を確立し、この方法をICCATの加盟漁業国により大西洋の各地から収集された多くの試料に適用して、ミトゲノム分析を実施しました。(2)分析の結果、大西洋のアオザメは、遺伝的に大きく異なるミトゲノム2系統からなることが判明しました。この2系統の出現頻度は大西洋の南北で大きく異なり、2系統の地理的な異質性をこれまで以上に鮮明に捉えることに成功しました。
[成果の活用面・留意点]
(1)世界各国と共同で、大西洋のアオザメの資源評価・管理の高度化のための基礎的知見を得ることができました。(2)大西洋のアオザメのミトゲノム2系統の地理的な異質性が鮮明になったことから、資源状態の悪化が懸念されている北大西洋のアオザメを効果的に保全するためには、大西洋を南北に分けるといった地域ベースの資源管理が必要になるものと考えられます。(3)本研究の成果は、大西洋のアオザメに関する国際的な資源管理の枠組みの議論において、本種の保全・管理措置の議論の拠り所(科学的根拠)として直接的に貢献することが期待されます。
[その他]
研究課題名:国際水産資源調査・評価事業
研究期間:平成29年〜令和2年
予算区分:補助事業(水産庁)
研究担当者:仙波 靖子
発表論文等:Nohara, K., Takeshima, H., Noda, S., Yanada, R.,Coelho, R.,Santos, M. N., Cortés, E., Domingo, A. de Urbina, J. O., Semba, Y. (2020) ANALYSIS OF THE GENETIC POPULATION STRUCTURE OF ATLANTIC OCEAN SHORTFIN MAKO BY USING MITOGENOMICS AND NUCLEAR-GENOME-WIDE SINGLE-NUCLEOTIDE POLYMORPHISM GENOTYPING. SCRS/2020/132 12pp.
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