[背景・ねらい]
我が国にとって重要な水産資源の一つであるサンマは、近年漁獲量が減少し、魚体も痩せている。そのため、不漁や肥満度低下の要因を明らかにすることが求められている。肥満度低下の要因のひとつとして、サンマの餌となる動物プランクトンの減少が考えられるが、いつ、どこで、どのような種類の餌を食べているのかという食性についての情報は限られていた。本研究では、サンマの消化管内容物を分析することにより、餌を探して捕食する行動の活発な時期や主要な餌生物を明らかにした。さらに、環境中のサンマの餌生物の分布を調べることにより、餌料環境と近年の肥満度の低下との因果関係について検討した。
[成果の内容・特徴]
漁獲されたサンマの消化管内容物重量の季節変化を調べた結果、5月から8月に内容物の重量は増加しており、サンマは北上回遊期に活発に索餌を行っていることが明らかになった。この北上回遊期の消化管内容物について、顕微鏡分析により餌生物を同定すると、27種類の動物プランクトンが消化管内から発見された。このうち、よく食べられていたのはネオカラヌス属カイアシ類2種(ネオカラヌス プルンクルスとネオカラヌス クリスタ―タス)、カラヌス属カイアシ類、オキアミ幼生であった。特に、消化管内容物重量から推察される摂餌量でみるとサンマはネオカラヌス属カイアシ類を大量に食べていることが示唆され、重要な餌生物であると考えられた。このネオカラヌス属カイアシ類の水中における分布量の経年変化を調べたところ、肥満度が高かった2006年にはネオカラヌス属カイアシ類は東西に広く高密度で分布していたが、最近は減少していることがさらに明らかになった。このような餌環境の悪化により、サンマは以前に比べると北上時に良い餌環境に出会えず、肥満度の低下につながった可能性がある。
[成果の活用面・留意点]
本研究により、サンマがいつ、どんな餌を活発に食べているのか明らかにすることができ、さらに餌料環境の悪化がサンマの近年の肥満度の低下に関連している可能性が示唆された。今後、ネオカラヌス属カイアシ類の分布量と気候変動との関係を明らかにすることにより、漁場へ来遊するサンマの肥満度の予測精度向上や不漁要因解明につながることが期待される。
[その他]
研究課題名:国際水産資源調査・評価事業
研究期間:H31〜R2
予算区分:委託・補助事業(水産庁)
研究担当者:宮本洋臣・巣山哲・田所和明
発表論文等:Miyamoto H., Vijai D., Kidokoro H., Tadokoro K., Watanabe T., Fuji T., Suyama S. 2020 Geographic variation in feeding of Pacific saury Cololabis saira in June and July in the North Pacific Ocean. Fisheries Oceanography, 29:558–571
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