[背景・ねらい]
噴火湾ホタテガイ養殖では、必要量の種苗が確保できない採苗不良が過去17年で7回起きている。採苗不良年には、日本海やオホーツク海から種苗を購入せざるを得ず、養殖漁家経営の圧迫要因となっている。本研究では、噴火湾ホタテガイ養殖における採苗の良否と環境の関係を明らかにすることで、採苗良否の早期予測を可能にし、ホタテガイの生産と養殖漁家の経営を安定させることを目的とする。
[成果の内容・特徴]
過去17年の試験採苗結果(水産技術普及指導所調査)と噴火湾の環境およびホタテガイの成長モニタリングの結果(本水試調査)の関係を解析し、採苗良否と生殖巣発達期の餌環境および母貝の成長との関係を明らかにした。また、これらの結果とエルニーニョ年・ラニーニャ年との一致性を検証し、地球規模の環境変動が噴火湾のホタテガイの繁殖状況に影響している事を示した。
生殖巣発達期の2月において、クロロフィルa濃度(餌量)が低いと採苗不良となり、クロロフィルa濃度が高いと採苗が良好になる(図1)。また、母貝の成長不良年は2月のクロロフィルa濃度から期待される種苗密度よりも実際の種苗密度が低くなる。採苗不良年や母貝の成長不良年には、産卵直前の4月における卵母細胞の壊死率が高くなっている(図2,3)。最大浮遊幼生密度と採苗密度の関係が採苗不良年と採苗良好年で異なることから、母貝の状態は浮遊幼生の生残にも影響すると考えられる(図4)。エルニーニョ年は2月のクロロフィルa濃度が低く、ラニーニャ年には母貝の成長不良が起きている(図1)。母貝の成長不良年は、1齢貝の平均貝柱重量が12.5g未満の年(図5)。ホタテガイの浮遊幼生期における噴火湾表層水の渦が弱いか表層水自体の厚さが薄いと、浮遊幼生の分散が小さく、採苗不良は緩和される(図6)。
[成果の活用面・留意点]
2月のクロロフィルa濃度による採苗見込みは2〜3月に行われる各漁協のほたて部会総会等で報告している。また、4月の卵母細胞壊死率は、各地の水産技術普及指導所を通じて、4〜5月に壊死率測定結果として、各浜に情報提供している。これらの情報は、準備する採苗器の数や採苗器を投入する場所を決定するための判断材料として、各養殖漁家に利用されている。
[その他]
研究課題名:噴火湾養殖ホタテガイ生産安定化モニタリング試験
研究期間:平成18年度〜20年度
予算区分:受託
研究担当者:北海道立函館水産試験場 調査研究部
発表論文等:Baba, K. et al. (2009) Relationship between spat density, food availability, and growth of spawners in cultured Mizuhopecten yessoensis in Funka Bay: concurrence with El Nino Southern Oscillation.Can. J. Fish. Aquat. Sci. 66: 6-17。馬場 他 (2009) 北水試だより 77: 1-6
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