[背景・ねらい]
ワカメは三陸沿岸における重要な海藻養殖物であり、流通しているワカメのほとんどが養殖されたものである。養殖ワカメは、育苗した幼芽を秋季に海中に設置した養殖施設に取り付けて(芽付け)、生育させる。ワカメ養殖場の栄養塩濃度は夏季には枯渇しているが、秋季から冬季にかけて増加し、養殖が可能なレベルとなる(図1)。芽付け時の栄養塩濃度のレベルについて、亜硝酸と硝酸態窒素の総和濃度(以下NOx濃度)が10μgL−1以下では芽落ちと呼ばれる生育不良が発生しやすく、20μgL−1以上が望ましいとされている。NOx濃度の増加のタイミングを予測できれば、芽落ちリスクを軽減することが可能となる。本研究では、秋季のワカメ養殖場周辺海域におけるNOx濃度の時間変化を予測する鉛直一次元モデルを開発した。このモデルを用いて、安定したワカメの成長が望まれるNOx濃度≧20μgL−1となる確率を県による定線観測を初期値として50日先まで予測し、漁業者に情報発信した。
[成果の内容・特徴]
岩手県水産技術センターが毎月行っている沿岸定線観測データを解析し、秋季のワカメ養殖場では、沖合域の混合層深度の増加によって表層に供給された栄養塩が流入してワカメ養殖に適した栄養塩環境が形成されていることを明らかにした。この結果に基づき、沿岸定線観測の水温、塩分、栄養塩濃度の鉛直分布を初期値として、これらの50日先までの時間変化を予測する鉛直一次元モデルを開発した(図2)。このモデルにより、2016年10月11日の観測データを初期値として予測したNOx濃度≧20μgL−1となる確率は、10月25日までは0%で、その後は11月30日の85%まで徐々に増加した(図3)。この結果は10月25日までは芽付け作業を行わない方がよいことを示している。この情報を10月18日に水技センターのHPを通じて発信した。 係留系で観測されたNO3≧20μgL−1となった日は11月18日であり、この日の予測確率は75%であった。予測確率が0%でもなく、100%に達してから相当日数経った後でもないことから、モデルの予測は実用的であると判断した。
[成果の活用面・留意点]
予測情報を漁業者に発信し、ワカメの芽落ちリスクを軽減することに成功した。
[その他]
研究課題名:「食料生産地域再生のための先端技術展開事業(漁業・漁村型)【岩手県】」
研究期間:H24〜H29年度
予算区分:農林水産技術会議
研究担当者:筧 茂穂、内記公明(岩手内水面水技セ)、児玉琢哉(岩手水技セ)、和川 拓(日水研)、黒田 寛(北水研)
発表論文等: Kakehi, S., Naiki, K., Kodama, T., Wagawa, T., Kuroda, H., Ito, S. I. (2018) Projections of nutrient supply to a wakame (Undaria pinnatifida) seaweed farm on the Sanriku Coast of Japan. Fisheries Oceanography, 27(4), 323-335
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