[背景・ねらい]
東日本大震災では、津波の来襲にともなう強い流れによって多くの防波堤が倒壊し、漁港漁村に甚大な被害が生じました。図1内の写真に防波堤の被災例を示します。防波堤の端部周辺(〇部分)に配置された被覆ブロックが津波により流出したことをきっかけとして、基礎マウンド部が崩れて防波堤の沈下や倒壊が起こり、背後の被害発生に至った可能性が考えられています。今後の防災・減災対策では、ブロック質量を津波に対して安全になるように算定することが求められます。しかし現行の算定方法では、強い津波の流れに対して数百-数千トンといった非常に大きな質量が算出されてしまい、現場での工事が困難となる場合があります。そこで、適切な安定質量の評価及び算定方法を確立するため、水理模型実験による検討を行いました。
[成果の内容・特徴]
水産技術研究所神栖庁舎の実験水槽内で、ブロックの安定性の評価実験を行いました。防波堤端部の基礎部分を再現した丘(マウンド)状の模型の上にブロックを配置し、どの程度の流れでブロックが移動するかを調べました(図2)。図3に様々な大きさ(質量)のブロックを用いた実験結果の例を示します。質量約32-180 g(実重量換算で16-92トン)のブロック模型に対する移動開始流速が0.7-1.2 m/s(実流速 6.4-10.8 m/s)という結果が得られました。このようなブロック質量と移動開始時の流速との関係は、現行の算定式(黒線)から求められる質量より小さなものとなり、現実的な算定式の改良が可能であることが明らかになりました。そこで、実験結果を踏まえ、津波の高流速に適用可能となるように式の修正・提案(赤線)を行いました。
[成果の活用面・留意点]
新たに提案した算定式は、津波の流れによって引き起こされるブロックの移動を実験で再現して、その成果を設計のための汎用的な数式としてまとめたものであり、実用性の高いものとなりました。本成果は被覆ブロックの合理的な設計手法の案としてまとめられ、漁港施設の設計の技術書への反映を通じ、全国の漁港整備における防災・減災対策を進めることに大きく貢献すると期待されます。
[その他]
研究課題名:水産基盤施設の設計の高度化および漁港漁村の特性を考慮した防災・減災技術の開発、漁港漁場施設の設計手法の高度化検討調査
研究期間:平成30年度-令和2年度
予算区分:一般交付金、水産庁事業
研究担当者:古市 尚基、佐伯 公康、三上 信雄、大村 智宏、大井 邦昭
発表論文等:加藤 広之, 古市 尚基, 他, 土木学会論文集B2(海岸工学), 76(2), p. I_703-I_708, 2020
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