安全なサキシトキシン鏡像異性体標準物質の開発 |
物理化学的性質は同じだが、天然型サキシトキシン(STX)とは薬理学的活性の異なるSTX鏡像異性体を、立体選択的に合成し、分析化学的性質が等しいこと、毒性がかなり弱いことを明らかにした。これにより、STX鏡像異性体が一般試薬と同等に使用できるようになった。 |
担当者名 |
(国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・応用部門 水産物応用開発部 安全管理グループ |
連絡先 |
Tel.045-788-7630 |
推進会議名 |
水産利用関係 |
専門 |
赤潮・貝毒 |
研究対象 |
貝類 |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
3(1)安全・安心な水産物の供給技術の確立 |
[背景・ねらい]
国内における二枚貝の麻痺性貝毒検査では、動物を用いた検査が用いられていますが、EUをはじめとする諸外国において、機器分析法への移行が進められています。機器分析における検査対象成分の一つであるサキシトキシン(STX)は、化学兵器の原料となる化学物質として、経済産業省の許可なく製造、使用することが禁止されているため、麻痺性貝毒機器分析法の普及の妨げとなっています。物理化学的性質は同じですが、天然型STXとは薬理活性が異なると推測されるSTX鏡像異性体(右手と左手の関係のように、鏡に映したような構造をもつ化学物質)に着目し、無毒で安全なSTX鏡像異性体標準物質の開発に取り組みました。
[成果の内容・特徴]
1. L-リンゴ酸を出発原料に、STX鏡像異性体の立体構造を維持した合成に成功しました。この化合物は非常に安定で、天然型STXに変換することはありませんでした。
2. 合成した鏡像異性体は、機器分析において、分析カラムから溶出してくる時間や検量線、化合物特有の断片化パターンがSTXと同一であるため、機器分析の標準物質として利用できることが明らかになりました。さらに、抗体を用いた簡易分析法であるイムノクロマトグラフィー法では、STXとその鏡像異性体を識別できることが確認できた。
3. 鏡像異性体の毒性について様々な方法(マウス毒性試験、STXの作用標的である電位依存性ナトリウムチャネルを豊富に発現したNeuro2A細胞を用いた毒性試験など)を用いて調べましたが、いずれも毒性を示さないか、かなり毒性が弱いことが判明しました。
[成果の活用面・留意点]
1. STX鏡像異性体を用いた貝毒検査法を公定法として、あるいは地方公設試験場や民間検査機関に社会実装するため、経済産業省において化学兵器禁止法上における鏡像異性体の取り扱いが検討された結果、一般試薬としての流通が可能となります。
2. 毒性のあるSTXを使用せずに、機器分析によりSTXを検査できるようになり、国内において機器分析への移行が可能になります。
3. STXの保有量を減らすことにより、わが国も批准している化学兵器禁止条約の施行に貢献します。
[その他]
研究課題名:海洋生物毒及び有害微生物を原因とする水産物リスクを管理・制御するための技術開発
研究期間:2021-04〜2023-03
予算区分:運営費交付金
研究担当者:渡邊龍一、小澤眞由、内田肇、松嶋良次
発表論文等:Watanabe et al., (2022) Anal. Chem. 94, 11144-11150
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[具体的データ] |
 サキシトキシン(天然型)と非天然型(鏡像異性体)の化学構造と立体構造
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(左)天然型STX、(右)非天然型STX(鏡像異性体)の立体構造
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 イムノクロマト法によるSTXとその鏡像異性体の識別
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T-lineにバンドが消失しているとSTX陽性と判別します。
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