赤潮に強い養殖ブリを作る |
赤潮は養殖魚の大量へい死を引き起こすため、養殖業に対する重大なリスクです。ブリを選抜育種することで、赤潮に強い次世代を作り出すための研究を行いました。ブリを有害赤潮プランクトンのシャットネラ・アンティーカの培養液にばく露する耐性試験を行い、この赤潮耐性試験に生き残ったブリを交配した結果、作出した次世代の赤潮耐性の向上が確認されました。 |
担当者名 |
(国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所 養殖部門 生産技術部 技術開発第4グループ |
連絡先 |
Tel.0959-88-2750 |
推進会議名 |
増養殖関係 |
専門 |
水産遺伝育種 |
研究対象 |
ぶり |
分類 |
研究 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい]
優れた特性を持つ親を選抜して交配することを繰り返して、子や孫の世代の能力を累積的に高めていく手法を選抜育種と呼びます。この選抜育種の技術を使って赤潮に強いブリを作ることが出来れば、赤潮が引き起こす養殖被害の軽減が期待できます。そこで本研究では、赤潮に強いブリを実験によって選抜して交配することで、赤潮に強い次世代を作り出すための研究を行いました。
[成果の内容・特徴]
まず、ブリの人工授精技術(図1)によって計画的な交配を行い、117家系のブリを作出しました。次に、有害赤潮プランクトンであるシャットネラ・アンティーカを大量に培養し、作出したブリの稚魚をプランクトン培養液にばく露し、赤潮耐性試験を実施しました(図2)。試験した3,790尾のブリのうち、22.2%にあたる840尾が赤潮へのばく露に生き残り、赤潮に強い親候補として選抜されました。この赤潮耐性試験における生残率は家系ごとに異なり、赤潮に強い家系と弱い家系が存在することが明らかになりました(図3)。また、赤潮に強いという特性は、親から子へと能力が伝わる遺伝的形質であることも示唆されました。選抜した親候補は交配が可能となる大きさ・年齢になるまで養成されました。そして令和3年に、平成30年の赤潮耐性試験で選抜した赤潮に強い魚(生残魚)と、赤潮耐性試験を行っていないため赤潮への強さが不明な魚(通常魚)を用いて交配試験を行いました。生残魚同士の交配を12家系、生残魚と通常魚の交配を12家系、通常魚同士の交配を4家系、それぞれ作出しました。作出した次世代を親世代と同様の赤潮耐性試験に供したところ、生残率は生残魚同士の交配群では42%、通常魚同士の交配群では25%、通常魚と生残魚の交配群では生残率21%であり、生残魚同士の交配群が高い生残率を示しました(図4)。選抜育種によって赤潮への強さが改良されたことが、実験的に確認されました。
[成果の活用面・留意点]
赤潮被害を軽減するための新しい対策技術として、選抜育種の有効性が示されました。育種改良により赤潮に強くなったブリを養殖用種苗として利用することで、赤潮被害の軽減が期待されます。また、人工種苗に「赤潮に強い」という新たな価値が加わることで、天然種苗から人工種苗への転換を促し、天然資源に依存しない持続可能な養殖業の発展に寄与します。さらに、本研究で作り出した赤潮に強いブリを詳しく調べることにより、赤潮で養殖魚がへい死するメカニズムに関する研究がさらに進み、赤潮被害を軽減させる新しい技術開発に繋がる可能性があります。
[その他]
研究課題名:ブリの優良家系を効率的に作出する手法の開発
予算区分:運営費交付金一般研究
研究担当者:秋田一樹・紫加田知幸・中条太郎・藤浪祐一郎・山崎英樹・堀田卓朗
発表論文等:Akita et al., (2022) Aquac. Res. 53(12): 4449-4459. DOI: 10.1111/are.15942
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[具体的データ] |
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