アユのスレ症に対する塩水浴の適正濃度と治療効果 |
スレ症のアユを塩分濃度0〜1.0%の飼育水に収容し、生残率と血液浸透圧の経時変化を調べた。スレによる死因は血液浸透圧の急激な変動によるもので、塩分濃度0.6%での塩水浴は治療に最も効果的であると考えられた。スレ症のアユは体表の上皮細胞が損傷しており、傷は時間の経過とともに回復していくが、0.6%の塩水浴は上皮細胞の再生を早める効果があると考えられた。 |
担当者名 |
滋賀県水産試験場 環境・病理係 |
連絡先 |
Tel.0749-28-1611 |
推進会議名 |
内水面関係 |
専門 |
病理 |
研究対象 |
あゆ |
分類 |
普及 |
「研究戦略」別表該当項目 |
1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発 |
[背景・ねらい]
アユなどの淡水魚飼育において、採集や選別時の網ずれ等により体表が傷ついた状態(スレ症状)の魚に対して低濃度の塩水で一時的に処理する塩水浴は、魚の死亡を軽減できることが経験的に知られている。しかし、適正濃度や治療メカニズムについての知見は乏しい。そこでスレ症状のアユに対して種々の濃度で塩水浴を行い、生残率を比較するとともに、血液浸透圧の経時変化を調べた。また、塩水浴時の体表の治癒の様子についても観察した。
[成果の内容・特徴]
実験1:アユ(0.5g)をたも網に入れて空気中で30秒間揺らして体表に擦り傷を付け、塩分濃度を0〜1.0%に調整した水槽に収容した。塩水浴を1日した後、地下水を注水して1日飼育後の生残率を比較した。その結果、生残率は0%区22.5%、1.0%区17.5%と低かったが、0.6%区は98.8%、0.8%区は100%と高かった(図1)。
実験2:アユ(5.0g)を実験1と同様の方法で4分間揺らし、塩分濃度を0〜1.0%に調整した水槽に収容した。経時的に採血を行い、血液浸透圧を測定した。その結果、実験開始前の血液浸透圧は289 mOsmであったのに対し、0%区と0.2%区では実験開始後に急激に低下した。0.4%区も6時間後に260 mOsmまで低下した。一方、1.0%区では6時間後に443 mOsm、0.8%区も12時間後に375 mOsmまで上昇した。それに対して、0.6%区は12時間後まで300 mOsm程度で維持され、その後もやや上昇傾向ではあるが安定していた(図2)。
実験3:アユ(9.7g)を実験1と同様の方法で4分間揺らし、塩分濃度を0および0.6%に調整した水槽に収容した。経時的にサンプリングを行い、体表を観察した。その結果、トライパンブルー染色ではスレ直後のアユで体全体が青色に染まっており、光学顕微鏡で観察したところ上皮細胞が染まっていた。0%区のアユは6時間後でもまだ青く染色されたが、0.6%区のアユは染まる部位が少なかった(図3)。走査型電子顕微鏡観察では、健康魚の上皮細胞は指紋状構造がはっきりしていたが、スレ直後は不明瞭になった。しかし、6時間後には上皮細胞が再生し、1日後には指紋状構造を再確認できた(図4)。
以上の結果から、スレによる死亡は血液浸透圧の急激な変動によるもので、適正な塩水浴は浸透圧の変化を防止できることが明らかになった。塩分濃度0.6%での塩水浴は生残率も高く、血液浸透圧の変化も少ないことから、最も効果的であると考えられた。スレでは体表の上皮細胞が損傷を受けおり、その傷は時間の経過とともに回復していくが、0.6%の塩水浴は上皮細胞の回復を早める効果があると考えられた。
[成果の活用面・留意点]
塩水浴の適正濃度と治療メカニズムを解明することにより、コスト削減と歩留まり向上が期待できる。
[その他]
研究課題名:養殖衛生管理体制整備事業 研究期間:令和2年度〜4年度
予算区分:国庫補助 研究担当者:菅原和宏(滋賀県水産試験場),井ノ口繭(東京大学)
発表論文等:養殖ビジネス2月号2022;13-17.養殖ビジネス9月号2023;57-61.
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[具体的データ] |
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