水産研究成果情報検索結果




渓流魚春稚魚放流の適正サイズと渓流漁場における採捕規制の増殖効果
河川における渓流魚の増殖効果向上のため、春稚魚放流における種苗サイズの違いおよび採捕規制が増殖効果に及ぼす影響を検証した。その結果、イワナは大型種苗の方が放流後の生残率が高いことが示された。また、禁漁区およびキャッチアンドリリース区の設定は渓流魚の生息密度をそれぞれ通常の入漁区の2.2倍および1.5倍にする効果があると推定された。
担当者名 群馬県水産試験場 川場養魚センター   連絡先 Tel.0278-52-2007
推進会議名 内水面関係 専門 増養殖技術 研究対象 他の淡水魚 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 1(2)水産生物の効率的・安定的な増養殖技術の開発
[背景・ねらい]
 河川上流に生息するイワナは、渓流釣りの対象魚として人気があり、資源増殖を目的として漁業協同組合により主に稚魚放流が行われている。しかし、期待するほど資源は増えておらず、近年、稚魚放流の増殖効果が疑問視されている。そのため、増殖効果の高い稚魚放流の手法や、放流に頼らない自然繁殖由来の渓流魚の再生産増進手法が求められている。そこで、一般的に行われるイワナの春稚魚放流における生残率向上を目的として、放流種苗サイズの違いが増殖効果に及ぼす影響を検証した。また、採捕規制による増殖効果の定量化を目的として、採捕規制が渓流魚の生息密度に与える影響を推定した。
[成果の内容・特徴]
(1)イワナ春稚魚放流

1 cm毎に群分けした全長5-9 cmの継代養殖イワナを春に6河川に放流した結果、5 cmと6 cmのイワナの間以外ではより大型の種苗の方が放流後の生残率が有意に高かった。一方、放流されたイワナ稚魚は種苗サイズと調査サイトにかかわらず放流の数か月後には調査サイト内にほぼ生残していなかった(図1)。

(2)採捕規制

複数の採捕規制区(禁漁区およびキャッチアンドリリース区)と通常の入漁区において調査を行った結果、禁漁区およびキャッチアンドリリース区の設定は渓流魚の生息密度をそれぞれ通常の入漁区の2.2倍および1.5倍に増加させる平均処置効果があると推定された(表1、2)。
[成果の活用面・留意点]
(1)大型種苗を放流した方がイワナ春稚魚放流における短期的な生残率を向上させることができる(活用面)。

(2)種苗サイズにかかわらずイワナ春稚魚放流の増殖効果は低い可能性がある(留意点)。

(3)採捕規制を行った場合における渓流魚の増殖量を推定することができる(活用面)。
[その他]
研究課題名:漁場環境に応じた資源増殖等の手法開発

研究期間:平成30-令和4年

予算区分:水産庁委託事業「環境収容力推定手法開発事業」

研究担当者:山下耕憲、松原利光、神澤裕平、井下眞

発表論文等:山下耕憲, 松原利光, 神澤裕平, 鈴木究真, カルロス・アウグスト・ストルスマン (2023) 渓流漁場における禁漁区設定による増殖効果の定量化. 日本水産学会誌, 89, 345-352.

Yamashita, Y., Kanzawa, Y., Inoshita, M., Suzuki, K. (2023) Quantification of the effect size of the catch-and-release regulation in recreational fishing for conservation and sustainable use of stream salmonids. 10th International Charr Symposium.
[具体的データ]
図1 放流サイズ毎の生残尾数の推定値(点:調査時の推定値、線:モデルによる真値)



表1 通常の入漁区の生息密度に対する禁漁区設定の平均処置効果(ATE)、95%信頼区間および<i>p</i>値



表2 通常の入漁区の生息密度に対するキャッチアンドリリース区設定の平均処置効果(ATE)、95%信頼区間および<i>p</i>値







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