水産研究成果情報検索結果




マガキ採苗不調の原因解明のための調査・解析
近年、広島湾のマガキ養殖では採苗不調が問題となっている。その原因として、餌不足など、浮遊幼生期の環境が不適であることが指摘されていたが、科学的知見が不足していた。本研究では、3ヵ年にわたり広島湾で調査を実施し、観測データを解析することで、D型幼生期の低水温や餌不足が採苗不調の原因となることを明らかにした。さらに、マガキ浮遊幼生の餌生物として重要と考えられる珪藻類を見出した。
担当者名 (国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 漁場生産力グループ 連絡先 Tel.0829-55-3492
推進会議名 漁場環境保全関係 専門 生物生産 研究対象 植物プランクトン 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 4(1)漁場環境の保全と基礎生産力向上のための技術開発
[背景・ねらい]
広島湾におけるマガキ養殖では、天然に発生する幼生を採苗器に着底させる天然採苗により種苗を確保している。しかし近年、養殖に必要な量の種苗が確保できない、いわゆる採苗不調が問題となっている。これまでに、餌不足など、浮遊幼生期の環境が不適であると着底が上手くいかず採苗不調に繋がる可能性が指摘されていたが、科学的な知見は不足していた。そこで本研究では、マガキ浮遊幼生の生息環境(水温、塩分、餌の量)と着底の成否との関係を明らかにするために、広島市及び広島県と協同し、3ヵ年にわたり広島湾で観測を行った。また、これまで不明であった、マガキ浮遊幼生の餌生物の特定にも取り組んだ。
[成果の内容・特徴]
D型幼生期の水温が26.9℃以上であり、10 μmよりも小さなサイズの植物プランクトン(=浮遊幼生の餌生物)由来のクロロフィル濃度が5 μg/L以上でないと、マガキの着底が上手くいかないことが見出され、D型幼生期の低水温や餌不足が採苗不調の原因となることが示された。また、広島湾の海水やマガキ浮遊幼生の消化管内容物におけるDNAの網羅的解析(メタバーコーディング解析)の結果、珪藻類のシクロテラ属がマガキ浮遊幼生の主要な餌であることを見出し、培養株の確立にも成功した。
[成果の活用面・留意点]
本研究により、マガキのD型幼生期の水温および餌の量と着底の成否との関係が明らかになった。D型幼生が着底するまでには10日間ほどかかるので、水温や餌生物の観測データから、10日後のマガキの採苗の成否を予測することが可能となった。また、本研究において、マガキ浮遊幼生の重要な餌として見出されたシクロテラ属の培養株を確立した。今後、シクロテラ属の大量培養系を構築することで、二枚貝の種苗生産用の新たな餌生物として利用されることが期待される。
[その他]
研究課題名:「沿岸域における漁場環境及び生物生産の変動機構の解明と適応策の検討(運営費交付金)」、「二枚貝幼生の餌となる植物プランクトン種の探索および生理・生態特性と出現動態の解明(所内交付金プロジェクト)」、「採苗予測モデルの構築業務(広島県委託事業)」、「栄養塩の水産資源に及ぼす影響の調査(漁場環境改善推進事業)」

研究期間:H30〜R4

予算区分:運営費交付金、広島県「広島県委託事業」、水産庁「漁場環境改善推進事業」

研究担当者:松原賢、岡村知海、鬼塚剛

発表論文等:Matsubara T, Yamaguchi M, Abe K, Onitsuka G, Abo K, Okamura T, Sato T, Mizuno K, Lagarde F, Hamaguchi M: Factors driving the settlement of Pacific oyster Crassostrea gigas larvae in Hiroshima Bay, Japan. Aquaculture, 563, 738911 (2023)
[具体的データ]


図1.D型幼生期における水温及び餌の量と着底の成否との関係(着底指数:着底量/D型幼生密度、高いほど着底に成功)

表1 広島湾で採取したマガキ浮遊幼生の消化管内容物から検出された植物プランクトン(数字はDNA量)





図2.広島湾から分離したシクロテラ属の培養株





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