[背景・ねらい]
広島湾におけるマガキ養殖では、天然に発生する幼生を採苗器に着底させる天然採苗により種苗を確保している。しかし近年、養殖に必要な量の種苗が確保できない、いわゆる採苗不調が問題となっている。これまでに、餌不足など、浮遊幼生期の環境が不適であると着底が上手くいかず採苗不調に繋がる可能性が指摘されていたが、科学的な知見は不足していた。そこで本研究では、マガキ浮遊幼生の生息環境(水温、塩分、餌の量)と着底の成否との関係を明らかにするために、広島市及び広島県と協同し、3ヵ年にわたり広島湾で観測を行った。また、これまで不明であった、マガキ浮遊幼生の餌生物の特定にも取り組んだ。
[成果の内容・特徴]
D型幼生期の水温が26.9℃以上であり、10 μmよりも小さなサイズの植物プランクトン(=浮遊幼生の餌生物)由来のクロロフィル濃度が5 μg/L以上でないと、マガキの着底が上手くいかないことが見出され、D型幼生期の低水温や餌不足が採苗不調の原因となることが示された。また、広島湾の海水やマガキ浮遊幼生の消化管内容物におけるDNAの網羅的解析(メタバーコーディング解析)の結果、珪藻類のシクロテラ属がマガキ浮遊幼生の主要な餌であることを見出し、培養株の確立にも成功した。
[成果の活用面・留意点]
本研究により、マガキのD型幼生期の水温および餌の量と着底の成否との関係が明らかになった。D型幼生が着底するまでには10日間ほどかかるので、水温や餌生物の観測データから、10日後のマガキの採苗の成否を予測することが可能となった。また、本研究において、マガキ浮遊幼生の重要な餌として見出されたシクロテラ属の培養株を確立した。今後、シクロテラ属の大量培養系を構築することで、二枚貝の種苗生産用の新たな餌生物として利用されることが期待される。
[その他]
研究課題名:「沿岸域における漁場環境及び生物生産の変動機構の解明と適応策の検討(運営費交付金)」、「二枚貝幼生の餌となる植物プランクトン種の探索および生理・生態特性と出現動態の解明(所内交付金プロジェクト)」、「採苗予測モデルの構築業務(広島県委託事業)」、「栄養塩の水産資源に及ぼす影響の調査(漁場環境改善推進事業)」
研究期間:H30〜R4
予算区分:運営費交付金、広島県「広島県委託事業」、水産庁「漁場環境改善推進事業」
研究担当者:松原賢、岡村知海、鬼塚剛
発表論文等:Matsubara T, Yamaguchi M, Abe K, Onitsuka G, Abo K, Okamura T, Sato T, Mizuno K, Lagarde F, Hamaguchi M: Factors driving the settlement of Pacific oyster Crassostrea gigas larvae in Hiroshima Bay, Japan. Aquaculture, 563, 738911 (2023)
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