水産研究成果情報検索結果




電位操作によるベントスの活性変化の把握及び底質改善効果
底質環境指標の一つである酸化還元電位のリアルタイムモニタリングに成功しました。本課題では外部からの電位操作による底質改善効果及び底生動物(ベントス)の活性変化を検証し電気化学的手法を活用した底質浄化法の有効性を検証しました。
担当者名 (国研) 水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・応用部門 環境保全部 化学物質グループ 連絡先 Tel.0829-55-3759
推進会議名 漁場環境保全関係 専門 漁場環境 研究対象 その他 分類 普及
「研究戦略」別表該当項目 5(2)主要水産資源の調査及び海洋環境等の長期モニタリング
[背景・ねらい]
人口の増加に伴う食料危機を回避する切り札として、養殖業を主とした持続可能な水産資源に大きな期待がかかっています。一方で、過剰な飼料投与による養殖環境の悪化は、深刻な問題になっています。そのため、底質環境の健康度を評価するための環境評価技術や実用性のある底質改善技術の開発が求められています。
[成果の内容・特徴]
重度の有機汚濁底質を、電位操作が可能なリアクター内に入れ、底質の電位を人為的に正の電位に操作し、60日間、20 ℃で培養しました。作用極にはガラス電極(フッ素ドープ酸化スズ(FTO)電極)を用い、電位操作を行わないリアクターを対照区とし各試験区には4つの繰り返し区を設けました。試験開始から、10日、30日及び60日後に、底質中の硫化物量を経時的に解析しました。その結果、人為的に電位を0.30 mVに操作した試験区の硫化物量は、30日目に平均6.6 mg/gまで減少し、60日目には平均4.6 mg/g (6割減少)となり、対照区と比較して有意な差が認められました(図1)。

 底質浄化を効率よく行うには、ベントスが底質中で活発に動き回ることが重要です。そこで、底質電位の変動に伴うベントスの活性変化を検証するため、環境電位を計測しながら、海産ミミズの行動を調べました。飼料を投与する前は、およそ半数の海産ミミズが尻尾を海水に突き出していましたが、飼料の投与により電位が低下すると、ほぼ全ての海産ミミズは底質に潜り出し、体全体を底質に埋めました。数日後、電位が回復し出すと、尻尾を海水に突き出した元の行動に戻りました(図2)。このことから、海産ミミズの行動も、底質電位を計測することで評価できることが示唆されました。さらに、核磁気共鳴法を用いて、異なる環境電位に置かれた海産ミミズの代謝解析を行いました。その結果、海産ミミズは環境電位が高く、酸化的な環境では尻尾を海水に出し好気呼吸を行い、一方、環境電位が低いときには底質の中に体を沈めフマル酸呼吸を行っていることが分かりました。これらの結果は、海産ミミズが、飼料の投与により大きく変動する環境電位に対して、行動と代謝を切り替えながら適応していることを示しています。
[成果の活用面・留意点]
環境電位は給餌量に応じて変化することから、同手法を用いることで養殖場での適切な給餌量を見積もることが可能になります(特許 WO2018/127989)。
[その他]
研究課題名:有害プランクトンに対応した迅速診断技術の開発

研究期間:2016年度 〜 2020年度

予算区分:農林水産技術会議 委託プロジェクト研究

研究担当者:五條堀孝

発表論文等:Shono et al. (2022) Frontiers in Microbiology
[具体的データ]












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