水産研究成果情報検索結果




亜寒帯水と亜熱帯水の混合は大型カイアシ類を増加させる
移行領域は、サンマやマイワシ、サバ類など小型浮魚類の重要な索餌場となっています。本研究では、日本沿岸から西経165度の範囲の移行領域において、小型浮魚類の主な餌生物であるカイアシ類の量や種組成について調査を行いました。その結果、亜熱帯水と亜寒帯水が混じりあう移行領域で大型のカイアシ類が増加することが明らかになり、混合域は浮魚類にとって良い餌環境を提供していると考えられます。
担当者名 (国研) 水産研究・教育機構 水産資源研究所 水産資源研究センター 広域性資源部 外洋資源グループ 連絡先 Tel.045-788-7516
推進会議名 漁場環境保全関係 専門 生態系 研究対象 動物プランクトン 分類 研究
「研究戦略」別表該当項目 1(1)水産資源の持続的利用のための管理技術の開発
[背景・ねらい]
東北沖は豊かな水産資源に恵まれ、漁業生産の高い海域です。この海域は、北に親潮、南に黒潮が流れ、その間には移行領域と呼ばれる海域が広がっています。移行領域では親潮が運ぶ冷たく栄養塩が豊富な亜寒帯水と、黒潮が運ぶ暖かく栄養に乏しい亜熱帯水が混合します。サンマやサバ類、マイワシ等の小型浮魚類は、この移行領域を親魚の索餌場や仔稚魚の生育場として利用しており、本領域での魚の餌料環境は魚の成長を左右すると考えられています。小型浮魚類の主な餌はプランクトンです。特にカイアシ類は動物プランクトンにおいて最も量が多く、主要な餌生物です。本研究では日本沿岸から約4,500 km(西経165度)に至る広域を対象に物理環境、植物プランクトン、そして小型浮魚類の主要な餌生物であるカイアシ類まで包括的に調査・分析し、生態系の地理的分布を明らかにしました。


[成果の内容・特徴]
2017年と2018年に行われたサンマ資源量調査において北太平洋標準プランクトンネットにより採集された動物プランクトン試料233検体を分析した結果、99種のカイアシ類が採集されました。カイアシ類の種組成を基にクラスター解析を行った結果、2つの大きなグループ(AとB)に分けられました。グループAは調査海域の北側に分布し、冷水性カイアシ類が多く出現し、逆にグループBは暖水性のカイアシ類の占める割合が高く南側に出現しました。グループAとBの分布の境は、亜熱帯水と亜寒帯水の境界である「亜寒帯境界」という海洋前線と概ね一致し、亜寒帯境界付近に亜寒帯生態系と亜熱帯生態系の境があることが明らかになりました。さらにグループAとBはそれぞれ4つサブグループ(A1からA4とB1からB4)に分けることができました。このうちA2は低塩分・低水温・高栄養塩で特徴づけられる典型的な亜寒帯域の環境に出現し、Neocalanus属カイアシ類が優占しました。一方、高塩分・高水温の典型的な亜熱帯水には小型種が低密度で分布するB3が出現しました。A2とB3は、小型の植物プランクトンが優占し、クロロフィル濃度が低いという共通点がありました。その他の群集は、亜寒帯境界周辺に出現し、暖水種と冷水種両方が混じっていました。この結果は亜寒帯境界付近では、亜熱帯水と亜寒帯水がある程度混ざっているということを意味しています。水が混合している群集(A3やB2)では、大型の植物プランクトン(珪藻)が優占し、さらにカイアシ類、特に大型種(CalanusやEucalanus)の分布量も多く、大型珪藻→大型カイアシ類→魚類とつながる栄養段階の少ないユニークな食物連鎖が発達していることが示唆されました。古典的食物連鎖は、本研究により黒潮続流から波及する流れによって亜熱帯水と亜寒帯水が混合する海域においても発達していることが新たに示され、移行領域での水の混合はサンマ等の浮魚類にとって良い餌料環境を提供すると考えられます。


[成果の活用面・留意点]
今後、餌料生物群集の分布様式に関する理解を深め、サンマ等の浮魚類の資源変動要因の解明に向けた研究の進展に貢献。


[その他]
[具体的データ]




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